二重世界
「な、なんだよ、何が……」


「早く!!」


「お、おう!」


亮ちゃんは、わけがわからないという感じだったが、私の必死な呼び掛けにすぐに応じてくれた。

運動神経の良い香織は、もうかなり先に行っている。一度冷静にさせないと、自分を責めて何をするかわからない。

私も全速力で後を追うが、亮ちゃんの姿は既にだいぶ前。香織に至ってはもう姿が見えなくなっていた。


「香織、落ち着いてよ!香織がいなくなったら私……」


私は、思わずついて出た自分の言動に少しだけ違和感を感じた。
まるで片瀬詩織になりきったかのような、その言動に。


それは片瀬詩織の体がそう感じさせたのか、昨晩香織から感じた優しさを受けた、藤瀬ヒロミとしての私がそう思ったのかはわからない。


そしてそのとき私にはなぜか、昔の記憶が蘇ってきた。片瀬詩織としての記憶が。
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