二重世界
小学校4年生のときの記憶―――


片瀬詩織は学校が終わった後、香織の家に遊びに来ている。

香織は、当時3歳と4歳だった弟の面倒を見ていて、私と遊ぶどころではない様子だ。

居間で座っている私を気に掛けながらも、弟達から目が離せないでいる。

そのとき、珍しく香織の母親が早めの帰宅をした。


「お帰りお母さん！早かったね！どうしたの？」


香織はとても嬉しそうに母親の所に駆け寄った。


「今日は詩織ちゃんが来るって言ってたでしょ？だから早めに仕事終わらせたのよ。あんたは遊んでらっしゃい」


香織の母親は、それから弟達につきっきりになる。

香織はその光景を寂しそうに見ていた。
多分、自分も母親に構ってもらいたかったのではないか。

私は客観的に見ているし、高校生だから香織の心情がなんとなくわかった。

声を掛けたいけど、過去の記憶だからか、片瀬詩織の意識がある時だからか、体が動かせない。
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