二重世界
私は喋る事が出来ないほど涙を流し、おばさんの言葉を受け、ただただ頷いていた。


「香織は君に感謝していたよ。僕らが香織に構ってやれなかったからね。ありがとう詩織ちゃん」


おじさんはその時初めて口を開き、同時に涙を浮かべた。
おそらく、口を開いたら涙が堪えきれなくなるのがわかっていたんだろう。

さっきまでは私のために無言でいてくれて、今は私のために声を掛けてくれた。

やっぱり香織の両親だ。
とても温かい。


「あの、俺も……何も出来なくてすみません」


「あ、藤堂くんは、偶然通りかかったところで、香織を追ってくれて、倒れた私の代わりに色々してくれたんです」


「そうか、君が。それは災難だったね。……本当にありがとう」


おじさんは亮ちゃんにお辞儀をして、お礼の言葉を述べた。


「い、いや、そんな……」


亮ちゃんはそのおじさんの態度に、しきりに恐縮していた。
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