二重世界
枝分かれした世界で香織が運ばれた病院に、片瀬詩織はいた。

香織が泣きながら詩織の手を握って座り、その場で医師が話す診断結果を聞いている。


「信じられないくらい衰弱しています。過労や、度を越えた睡眠不足が原因ですね」


これはひとえに、詩織が能力を酷使した結果だ。


「過労や睡眠不足？そんなはずは……。でも、過労や睡眠不足が原因なら、しばらく休めば詩織は大丈夫なんですか？」


香織の質問に、医師は少しだけ戸惑いの表情を見せ、間をおいてから口を開いた。


「これだけ体が衰弱していると、睡眠による自己回復能力が機能しないんです。過労で死に至る原因は体を酷使し過ぎて、本来なら機能するはずの自然回復力が失われる事なんだ……」


「つまり、詩織はどうなるんですか！？」


香織は怒りの眼差しを医師に向けた。その怒りの矛先は間違っていると、香織自身も重々承知している。

しかし、悲しみ以外の感情を外に吐き出さないと、香織は正気を保っていられない程に取り乱している。
< 179 / 265 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop