二重世界
「安心は出来ないけどとりあえず峠は越えたのね。良かった詩織」


香織は涙ぐんで詩織の手を握った。


「おばさん、三輪、片瀬は俺が見てるよ。何かあったら知らせる」


「亮ちゃんも無理したらダメよ。あなたも頑張りすぎるんだから」


佐和子と亮二の間で、亮二がヒロミにつきっきりだった過去の事が頭に浮かぶ。


「大丈夫だって。体力だけは自信あるからさ」


「本当はあたしが詩織の傍にいたいけど、まあ任せるわ。詩織も、好きな人に見守られた方が良いと思うしね。それに藤堂もまんざらじゃなさげだし」


香織は亮二をからかうような口調で言い、ウィンクした。


「バ、バカ言ってんじゃねえ!」


「あら、亮ちゃんはヒロミ一筋だと思ったけどねえ」


「おばさんまで……!」


「ふふ、わかる気はするけどね」


佐和子は、亮二が詩織を気にかける理由をなんとなく感じていた。
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