二重世界
「別に警戒なんか……」


私はその時に思ってしまったのだ。


この人の傍にいなきゃ、と。


同じ気持ちを分かち合う者としての感情?
母性本能?
それとも同情心?

その気持ちの正体は私にもわからない。

あんなに凄い能力を持っていて、常に無邪気な笑顔を浮かべ、たまに無感情な冷たい目をする彼の発した、消え入りそうな言葉。


私はその何気無い言葉と表情に、少しだけ、しかし確実に、心の1部を奪われた。


微力で大した力もない私が、こんな事を考えるのもおかしいけど、私は思った。


この人を守らなきゃ。
この人の傍にいなきゃ。


たとえそれが、愛する人を裏切る結果になったとしても……。


「アオ、ごめん。そんな事を感じさせてごめんね」


「ヒロミ……。こっちにおいで」


私は誘われるままに、 アオの隣に座る。


「ヒロミ、僕はね、別にヤツらの話をしたかったわけじゃないんだ」


「じゃあどうして?」
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