二重世界
「ヒロミ、そいつを庇うのかよ!」


私が亮ちゃんと向き合っているとき、アオは私の後から、亮ちゃんにサインを送った。

私には見えていないが、アオは自分の首筋に、トントンと指を差す仕草をした。

そしてアオはスッと立ち上がり、靴を履いて出ていってしまう。


「アオ、待って!」


「ヒロミ……、また来てもいいよね?」


その寂しげな背中に、私の心はズキンと痛んだ。
アオを受け入れる態度を取りながら、咄嗟にアオの事を突き飛ばしてしまったから。

私は孤独な彼を、深く傷つけたんじゃないか、と。それなら最初から拒むべきだったのに。


「また……、う、うん」


私はアオに対する申し訳なさと、亮ちゃんに対する背徳感で、下を向きながら答えると、無言でアオが出ていった。


「アオ……」


そのとき、私の首筋に亮ちゃんの視線が行っていた事に、私は気付かなかった。
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