二重世界
「起立!礼!着席!」


学級委員の高田くんが号令をかけ、皆座る。
授業は和やかに始まった。生徒1人が1文ずつ英文を読んで和訳する。私の番。


「え…と‘その天ぷらは古くからあり、美しい'…?」


「‘天ぷら'じゃなくて‘テンプル'つまり‘寺院'ね。古い天ぷらが美しいとは、新しい発想だね」


だって、英語でも‘テンプラ'て言うじゃない。
なんて言い訳を心で思っていると、クラスの皆から笑い声が漏れる。
大体なんで外国の言葉が必要なのよ……。


「今日はこのまま帰りのホームルームにしましょう。片瀬さん?」


「はい?」


「君は英語以外の教科は学年でも上位なのに、勿体無い。ホームルームが終わったら職員室に来るように」


来た……。
でも、職員室なら他の先生もいるし、何も出来ないはず。


「わ、わかりました」


この沢崎先生の言葉に女子がざわつく。「いいなー」なんて声も。
人の気も知らないで……。
< 235 / 265 >

この作品をシェア

pagetop