二重世界
「葵ちゃん?」


そのとき、保健室の外から声がした。
沢崎は私からパッと手を放し、ドアを開ける。


「あれ?なんで沢崎先生がいるんだ?葵ちゃんは?」


この声、亮ちゃんだ!
ベッドにはカーテンが敷かれ、外の様子は見えないが、確かに亮ちゃんの声だ。


(亮ちゃ……、え?また声が出ない!)


「留守番を頼まれてね。どうした?……膝を擦りむいてるじゃないか。塗り薬はどこかな……」


「ああ、ここだよ」


亮ちゃんは手慣れた手付きで薬を取り出して、膝に塗る。


「うし!さあ、練習行ってくるかな!」


「ケガするなよ」


「無理無理!サッカーにケガはつきものだからさ」


ガラガラ、ピシャン!


(亮ちゃん……?亮ちゃんも行っちゃったの!?)


「ははは……さて‘触診'の続きをするか」


コッ、コッ、と沢崎の足音が近付く。


(嫌っ!嫌だ!これ以上は……。私、何されるの!?)
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