二重世界
「さあ、食べて食べて!」


「いただきます!」


私は久し振りに、お母さんの作った玉子焼きを一口つまんだ。

懐かしい味。
少し砂糖の入った、甘味のある、お母さんの玉子焼き……。


「美味しい?」


お母さんは私の反応がとても気になるようだ。


「あら、美味しくなかったかな…。ごめんねえ、おばさん料理下手だから」


そんな事ないよ。
お母さんの料理は最高なんだから。ちゃんと‘美味しい'て言わなきゃ!


「お……し…い……」


なんで……。
なんでこんなに涙が出てくるの?


せっかくお母さんと二人だけの食事なのに。
笑顔でいなきゃ勿体無い。


「ごめ……なさい…」


お母さんは優しい笑顔を浮かべた。


「いいのよ。それより……おばさんもちょっと思い出しちゃった」


気付くと、お母さんも少し泣いていた。

泣かないでお母さん。
私はここにいるから。



‘お母さん'て呼びたいよ。なんで私は、あなたにとって‘娘'じゃないの?
なんで私は‘他人'なの?



本当は…私は……!!
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