二重世界
「は、はい。ありがとうございます」


私は深々と頭を下げた。


「こいつ、どうする?」


その男性は痴漢男の手をしっかりと掴みながら、私に判断を委ねた。


「あの、皆さん遅刻してしまわないように。その方が反省しているなら穏便に……」


私が痴漢男の顔をキッと睨み付けると、痴漢男は反省の弁を述べる。


「すみませんでした!あまりにも美人さんだったから……つい。もうしません!絶対に!」


あまりにも美人か……て、浮かれるな私!それにこの体は厳密に言えば私じゃないし。

う~ん、顔を見る限りでは反省しているようだけど。


「これで済んだらラッキーだぜ。ここはひたすら謝り倒して逃れるしかねえ!……あれ?」


「やっぱりこの人、警察につき出します」


はあ、遅刻だな……。
でもこいつ、全然反省の色がないから仕方ないじゃない。

それにしても、私の能力は相手の心の声を聞けるだけじゃなかったんだ。それを口に出させる事も出来るのね。

何か使えるかなあ。
まあ、後で考えよう。
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