二重世界
「片瀬詩織は何かを囁いたんだよ。あれは事故じゃなくて事件だ。片瀬詩織がホシだと言ってるわけじゃねえけどな」


坪倉は椅子の背もたれに斜めに寄っ掛かりながら、更に話を続ける。


「さらに痴漢野郎に対して心の声を言わせた。2つの不可解な現場の両方に片瀬はいたんだ。10中8、9、こいつは‘異能者'と見るね」


坪倉は、資料に記載された‘片瀬詩織'の文字を、ボールペンで何度もつつく。


「では、片瀬詩織は例の犯罪組織に関与してる可能性も?」


「ありえるな。どちらかというと利用された線が強い。ヤツらは証拠を残さないからな。だが府に落ちないのは、利用されたとして片瀬詩織がまだ生きている事だ」


「確かにそうですね。ヤツらの手口は、他人を利用してターゲットを殺す。そして利用された人間は必ず死を遂げている。……片瀬詩織が私怨から来る単独異能犯という事は考えられませんか?」
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