二重世界
「はは、腰が抜けるのも無理ないよ。……よっと」


「え!?あ……!」


男性は私を持ち上げた。
いわゆる‘お姫様抱っこ'の形だ。


「だ、大丈夫です!もう少しすれば!」


「んん?このままサヨナラするのが勿体無いくらい可愛いな」


男性はまたニコッと無邪気な笑顔を作る。


か、顔が近い……。
どうしよう、私、多分タコみたいに顔が真っ赤だと思う。


は、恥ずかしい……。


「ん、君……」


男性はジーッと私の目を見つめる。


「なな、何でしょう……?」


あまりに長い事見つめられ、私の方から目を逸らしてしまった。


「君……面白いね」


彼の顔を見てゾクリとした。私を見つめる目が、まるで蛇のように変化し、かすかな微笑みは獲物を目の前にした捕食者のようだったからだ。

彼の体から伝わる体温が一瞬にして冷たくなった。


「あ、ごめんごめん!つい君を隅々まで味わってみたくなっちゃったからさ」
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