二重世界
ゾワゾワ……と、さっきまでとは違う寒気がした。今のはどちらかというと‘男'としての発言に思えたから。


「あ、あの、下ろしてもらっても良いですか……」


「冗談だって!可愛い顔して慣れてないんだねえ。じゃ、行くよ!」


彼は私を抱えたまま、壁に向かって走り出した。


「ちょ、ぶつかる!!……え?」


確かに壁に激突したように見えた私達の体は、壁をすり抜け、建物の外に出ていたのだ。


「もう一丁!」


彼は更に、何もない空間を蹴上がると、私達は遥か上空へと舞い上がった。

月がとても近く見える。
信じられないくらい幻想的な光景。
夢だけど‘現実'なんだ……。

振り返ると、さっきまで私達がいた建物が、小さく見えるくらい後方に佇んでいた。


私がふと気を抜いた瞬間……


「きゃあああぁぁ!!」
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