二重世界
「ごちそうさまでした」


「手伝ってくれてありがとうね。また来てね」


私が家を出た時だった。お母さんが外を見て、不意に声をかける。


「あら、亮ちゃん。朝練?」


部活の朝練に行く亮ちゃんが通りかかったのだ。私はその瞬間、昨日の出来事が脳裏に浮かんだ。


「あの……、失礼しました!」


私は逃げるようにその場を走り去る。別に悪い事をしてるわけじゃないのに。


「片瀬!?なんであいつが……」


「亮ちゃん、あの子知ってる?確か同じ学校でしょ?」


「あ、ああ。まあ、少し」


「あの子、何だかヒロミにそっくりなのよね。雰囲気が」


「……え?」


「不思議な子。ウチの包丁の場所も知ってたし、白味噌も……。それにね、お箸の持ち方とか、癖とか、なんかあの子といるとヒロミと一緒にいるみたいなのよ」


「……でも、あいつはヒロミを!」


「ん、何?」


「な、何でもないよ。あいつがヒロミに似てるなんて気のせいだ!おばさん、騙されんなよ!……くっ、俺もう行くから」
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