二重世界
部屋に入ると、無精髭を生やした30代と思われる男性が座っていた。

私を見ると、少し微笑んで立ち上がる。


「おお、君が片瀬詩織さんか。……ふむ。痴漢の気持ちもわかるな。とても可愛いお嬢ちゃんだ」


冗談のつもりだろうが、あまり良い気はしない。痴漢の気持ちもわかる、なんて。痴漢された方の身にもなってほしい。


「先輩！」


私の気持ちを察してくれたのか、牧野さんが注意を促してくれた。


「はは、すまんすまん。悪い冗談だったな。なんせ変な事件ばかりで女日照りでなあ。まあ、俺が担当するのは全て変な事件だがね」


坪倉さんは笑いながら言った。変な事件ばかりって……。痴漢は変な事件でもないでしょう。


その後は、痴漢に遇った時の状況を聞かれ、詳しく話す。淡々と質疑応答が繰り返された。
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表紙・目次

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