二重世界
この人、何か知ってるの?正直に話して良いのかしら……?


「わかりません。本当に記憶がないので」


「じゃあ自分を操ったというような人物に心当たりはあるかい?」


心当たり……ある。
‘あの男'。


お父さん……?


でもあれがお父さんとは限らない。死んだはずの‘藤瀬 啓介(ふじせ けいすけ)'とは限らない。


(お父さんのはずがない!)


「わ、わかりません……」


坪倉さんは、そう言った私の表情をじっと観察していた。

私の表情から、言い方から、今わかる全ての情報を掴み取るが如く。

しばらくの静寂が流れる。


「そうか、わからないんじゃあ仕方ないな。君は何か知っているかと思ったんだが」


「すみません……」
< 83 / 265 >

この作品をシェア

pagetop