二重世界
「それで?昔、誰かに、貰ったとか……?」




亮ちゃんに……
亮ちゃんと私だけの思い出の……!





「…………ううん。別に思い出なんか全くないよ」





「はっ、そうかよ……」




これでいいんだ。
だってそう言わないと、こうして顔を見る事すら出来なくなっちゃうから。


私はあなたの顔を見られるだけで、声を聞けるだけでも、嬉しいから……。



ねえ亮ちゃん、あなたはさっき、誰を助けようとしてくれたの?


片瀬詩織の事?


それとも……
藤瀬ヒロミの事?



亮ちゃんは優しいから、片瀬詩織の事を助けたのかもしれない。でも、そうだったら私、少し嫉妬しちゃうよ。


顔を見られるだけで嬉しい。声を聞けるだけでも嬉しい。



でもね、やっぱり私は……



藤瀬ヒロミとして、あなたの温もりを感じたいんだよ、亮ちゃん。



思い出がないなんて、嘘ついてごめんね……。
< 95 / 265 >

この作品をシェア

pagetop