【企】$oldier File
俺が彼女を案内した部屋も、また質素であった。
ベッドが二つ。
机が一つ。
椅子が二脚。
「案外質素でよかった」
彼女は頬を緩める。
「俺らはA級だからな。もっと贅沢してもよかったんだが―…お前が嫌がったんだぞ?」
「もっと贅沢したい?」
年頃の男女が同室というのはいかほどのものかと思う。
だが俺はこのやり取りも嫌いではない。
「俺もこれでいい。ごちゃごちゃさせる必要はない」
俺は壁に備え付けてあるクローゼットを開け、自分のTシャツとズボンを取り出した。
「シャワー、そこ右だから、ほら、浴びてこい」
彼女は服を受け取ると、訝しげに俺を見た。
「多分大きい」
「仕方ないだろ。さっさと浴びてこい。後で街まで買いにいけばいい」
彼女がシャワーを浴びている間、俺は煙草に火をつけた。
今でも、他人に興味はない。
絆だ、友情だ、愛だと騒ぐ人間を馬鹿馬鹿しく感じていた。
そんなもので世界が救われているのなら、俺はとっくに失業者だ。
彼女といると、所詮自分も人間なのだと思い知らされる。
いつの間にか。
彼女を気にかけている。
失うのが怖いと思う。
傭兵失格だな。
だが、やめるつもりはない。
むしろやめられない。
溺れるほどに、俺はあいつに惹かれている。
俺は馬鹿な人間なのだ。
慣れは恐ろしい。
いつの間にか、彼女が記憶喪失で自分の元へ帰ってきても、さほど驚かなくなった。
俺はシャワー室に向かって声をかけた。
流れる水音は室内に響いている。
「どこまで覚えてる?」
少しの間があって、キュッとシャワーを止める音が響いた。
「さあね。もともと何を知っているかなんてわからないし」
俺はハハッと自嘲気味に笑った。
「それもそうだ」