最後のおくりもの

「はぁはぁ…」

病院から休むことなく走って約10分後、やっとあの"丘"に到着した。

久しぶりに来た"丘"は空気が澄んでいて、前に一樹と来た時と何も変わっていなかった。

その"丘"の端のほうに小さな石が散りばめられている場所があった。

それは2人の大切なものが埋まっている証。

私はすぐにその場所に近づき、土を掘り返す。

ちょっとするとカツンッと指に何かが当たる音がした。

それは紛れもなく2人で埋めたものだった。

土の中からゆっくりと箱を取りだし、蓋を開ける。

箱の中にはまた2つの小さな箱が入っている。

1つには"美奈"と私の名前。

もう1つには"一樹"と一樹の名前。

私は"一樹"と書かれているほうの箱を開けた。

その中には手紙が入っていた。

1年も前に埋めたから手紙は土で少し汚れている。


私は手紙を破けないように、そーっと開いてゆっくりと手紙に目を通した。

一樹が死んだとわかってもなぜか涙は出なかったのに―…


読み終わった私の目からは大粒の涙が流れていた。


私は涙が流れている間、一樹と出逢ってからのことを思い出していた。
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