彼女の日記〜きみを忘れない〜

「お待たせいたしました。どうぞ〜。」


若いアルバイトふうの女の子からホットコーヒーを受け取ると、幸恵に渡した。

ここの売店では、キャラメル味のポップコーンが売っているが、俺はその甘ったるい匂いが苦手だった。



映画館の中は満員で、あいていた後ろの端っこの、ペアシートに腰掛けた。


「ペアシートかぁ。なんか、私たち2人の為に残されていたって感じ。」


「何だ、それ?」


ホッとコーヒーが熱すぎて、渋い顔をしている和樹。

幸恵は、プッと吹き出し、
「ははは〜。冗談ですよ。本気にしないで下さいね。」

「・・してないけど。」


ヒリヒリする舌をかばうように、口元に手をあてながら和樹は言った。


「あ、始まりそうですよ。」


他の客たちのヒソヒソ声も、始まりのスクリーンの映像とともに聞こえなくなった。
< 49 / 229 >

この作品をシェア

pagetop