彼女の日記〜きみを忘れない〜
「お待たせいたしました。どうぞ〜。」
若いアルバイトふうの女の子からホットコーヒーを受け取ると、幸恵に渡した。
ここの売店では、キャラメル味のポップコーンが売っているが、俺はその甘ったるい匂いが苦手だった。
映画館の中は満員で、あいていた後ろの端っこの、ペアシートに腰掛けた。
「ペアシートかぁ。なんか、私たち2人の為に残されていたって感じ。」
「何だ、それ?」
ホッとコーヒーが熱すぎて、渋い顔をしている和樹。
幸恵は、プッと吹き出し、
「ははは〜。冗談ですよ。本気にしないで下さいね。」
「・・してないけど。」
ヒリヒリする舌をかばうように、口元に手をあてながら和樹は言った。
「あ、始まりそうですよ。」
他の客たちのヒソヒソ声も、始まりのスクリーンの映像とともに聞こえなくなった。