Kiss★恐怖症
もう走り出してしまったからには止まりようがない。


仕方がないから、このまま。


片方の手で、自分の座っている、金属の部分を持って、支えながらバランスをとる。


もう片方の手で、風になびく髪を耳にかける。


人混みの電車の中にいたせいか、風が心地好い。


「俺にちゃんとしがみついとかないと、落ちるよー」


前を向いたまま、話しかけてくる。


が。


「大丈夫。私、バランス感覚優れてるから」


なんて、意味不明…ではないけれど言い訳。


同じ方向に向かっている人の視線が、私たちに。


しがみついているところなんて、本当の彼氏じゃないんだから、あまり見られるのも恥ずかしい。


でも、本当にしがみつくほど揺れるわけじゃないし。


少しの沈黙の後、また直樹が言葉を発す。



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