「好きになるはずなかったのに」
「……?」
目の前の彼は消え、金木犀ではなく桃の香りが鼻についた。
「……」
霞む視界の中に消臭剤がおぼろげに浮かび上がり
露子は立ちあがった。
ビシャ――――!!!
「ひゃ――――!!!!何で!?何!?トイレ!?」
慌てふためく自分が哀れで、滑稽で、痛かった。
残念ながら先程の円谷は夢だったらしい。
夜なかに尿意を示した自分は、眼鏡も掛けずトイレに向かい
座りこみ何故かビデを押していたのだ。
露子は簡易パックに入った、シトラスのハーブティーを
真っ赤に白のドットのマグカップに作り
情けなく啜った。