「好きになるはずなかったのに」

露子は、この時期になると毎年思い出すことがある。

きれいに思い出とは言い切れない記憶だ。


それは露子が高校2年の時で、本当は二度と思い出したくないのに

“クリスマス臭”が、どうしても鼻先をくすぐって記憶を呼び起こす。



「あー、疲れちゃった!ねえ、露。あのピアスの人見た?

 ヤバいよね。私さ、ついつい聞いちゃったんだよ。

 そしたら30個ついてるんだって!私耳たぶだけしかやってないけどさ

 あの人臍にも鉄アレイみたな形のがあってさ!

 あけた後湯船入れなかったんだって。

 日頃臍出してるわけじゃないのに意味あんのかな……」


冬実は露子の向かいにどかっと座り、

化粧崩れした顔で、小鼻をてからせながらケケケっと笑った。


どうやらもう閉店時間間近らしい。

露子は次回作のキャラクターを考えている筈だったのだが

描かれている絵は高校生の頃の自分を思わせる

制服姿の少女の姿ばかりだった。






















< 44 / 54 >

この作品をシェア

pagetop