「好きになるはずなかったのに」
露子は、この時期になると毎年思い出すことがある。
きれいに思い出とは言い切れない記憶だ。
それは露子が高校2年の時で、本当は二度と思い出したくないのに
“クリスマス臭”が、どうしても鼻先をくすぐって記憶を呼び起こす。
「あー、疲れちゃった!ねえ、露。あのピアスの人見た?
ヤバいよね。私さ、ついつい聞いちゃったんだよ。
そしたら30個ついてるんだって!私耳たぶだけしかやってないけどさ
あの人臍にも鉄アレイみたな形のがあってさ!
あけた後湯船入れなかったんだって。
日頃臍出してるわけじゃないのに意味あんのかな……」
冬実は露子の向かいにどかっと座り、
化粧崩れした顔で、小鼻をてからせながらケケケっと笑った。
どうやらもう閉店時間間近らしい。
露子は次回作のキャラクターを考えている筈だったのだが
描かれている絵は高校生の頃の自分を思わせる
制服姿の少女の姿ばかりだった。