「好きになるはずなかったのに」


「いらっしゃいませ、二度目のご来店ありがとうございます」


平然を装った冬実は円谷を極寒の地から救い出した救護員の用にもてなした。


雨は降っていなかったか、(窓から見ればわかる)寒さで鼻が出ていないか、(見ればわかる)ましてやあかぎれの心配までして見せ


円谷の何かに触れようと策を練ったのであろう、ハンガーをそそくさと手に持ち「お洋服かけましょうか?」と天使の微笑みを見せたが


「大丈夫だよ」と、こちらも微笑んでつっかえされた。



その様子をうかがっていた20代の女二人組は、各々、店員はこの男が好きなんだ、店員はまるで執事だやらと姦(かしま)しい。



冬実はそれをやや疎ましく思い、お冷のおかわりはいるか聞いてやった。


「あ、円谷さん、好きな席に座ってくださいね。

 この前食べたいって言ってたの出しますんで」


小娘達のお冷を新しいグラスにいつもより優雅に注ぎながら、愛想良く言った。



















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