「好きになるはずなかったのに」
露子と円谷が鉢合わせなかったのは本当に紙一重だった。
もし露子が階段を使わないで帰ったものなら、今頃自室のベットにコートとマフラーをうっちゃって、なかなか点火を終えないカンカンストーブの前で凍えてはいない。
冬実の旨いハーブティーで身体を温め、彼の前で顔を火照らせていただろう。
「……あの人苦手だ」
顎が震えたと同時、人型の残ったコートのポケットが唸った。
冬実からだ。
「はい……こちらストーブ前。寒い」
返事がなかなか返ってこない代わり、遠くから冬実の声がした。
「?もし?冬実??おい」
露子は眉根を吊り上げた。
『も……もしもし?あの』
露子の心胆は一気に凍った。
そして身体はそのスピードに負けじと熱くなった。