【中編】夢幻華
「あんずっ!」

知らず知らず大きな声で叫んでいた。
が、虚しくも人ごみに俺の声はかき消され杏には届かなかったようだ。

杏は隣にいる男に話し掛け、無邪気な笑顔でうれしそうに笑っている。

その様子を見ていると、心の中に言い知れない苛立ちが湧きあがってきた。

それが一体何に対してのものなのか……俺には良く分からない。

ただ、杏があんな風に笑うのを見るのは久しぶりだった。

俺の前で無邪気に笑うことが少なくなっていた杏。

いつの間にか遠慮がちに覗き込むように俺を見るようになっていた杏。

俺が笑うとホッとしたように微笑むようになっていた杏。

そうさせていたのは自分の照れやプライドのようなものだったことに気が付く。


あんず…ごめんな



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