【中編】夢幻華
杏が楽しそうに視線を向ける相手の男を睨むように見つめる。

白いTシャツにくたびれたジーンズ、後ろ髪が肩に少しかかるくらい黒髪。目深にキャップを被っていて顔を見ることは出来ないが確かに20代後半くらいの男だ。

俺が杏のもとへ駆け出そうとしたとき、後から響が俺のシャツの裾を掴んで引きとめた。

意外な響の行動に戸惑いと同時に怒りが湧いてくる。

「なにすんだよ。響」

「落ち着けよ暁。あの男だろ?大人じゃないか。お前一人で行って何かあったら力では敵わないだろう?」

「だからって、このままで良いわけないだろ?」

「わかってる。今皆に招集令かけてやるからさ、待ってろ。子どもだって5人も集まればちょっとした戦力だ。」

胸が熱くなった。みんなは俺のためにさっきからずっと杏を探し回ってくれていた。

今、また招集令をかければ何も聞かずに飛んできて助けてくれるのだろう。

でも、それはできない。こうなったのは俺の責任なんだ。甘えるわけにはいかない。

「…響、ありがとうな。でも、これは俺の問題なんだ。俺が自分で解決しなきゃいけないんだ。」

響が一瞬固まったように俺を見つめて何か言おうとしたが、俺はかまわず走り出していた。




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