【中編】夢幻華
「蒼母さん…」
「ママったら…」

「すげえな。お見通しって感じだ」

「うん…でも普通こういう事を娘にメールで送ってくると思う?」

呆れ顔で俺を仰ぎ見る杏に思わずブッと吹き出してしまった。

杏も俺につられて噴き出すと二人で腹を抱えて笑い出した。

先ほどまでの気まずい雰囲気は払拭され、いつもの俺達にいつの間にか戻っている。

ただ一ついつもと違うのは俺達が裸でベッドの上にいるって言う事だけだ。

「あははっ。普通は無いよな。母親が娘と娘の彼氏に初えっちのアドバイスなんてさ。流石だよな蒼母さん。」

「うん。クスクス…でも、ママもそうだったんだ」

「あー、って事は右京父さん苦労したんだ。まあ右京父さんが俺にアドバイスをくれるとは思わないけどな。」

「やだ。パパがそんなことしたらコワイよ」

「そうだな。それにしてもとんでもねぇ遺伝だな。厄介な」

「うん…痛いのもママと一緒なら大出血は覚悟しておいたほうが良さそうね」

「んー杏の痛がり方も凄かったしなぁ」

「あ…ごめんね。本当に。あたし…」

「良いよ。俺だって杏が大切なんだ。無理はさせたくないし…今日は止めておこう」

「でも…いいの?」

「だって、すげぇ痛がってワンワン泣かしたら隣り部屋の龍也や聖良ちゃんに聞こえるだろう?心配して飛んでくるかもしれないじゃないか。」

「あ…うん、そうね」

「大丈夫だ。俺はちゃんと杏が俺を受け入れられる様になるまで待つから」

「ありがとう暁」

安堵したように俺にもたれてくる杏を抱きしめてぬくもりを感じながらベッドに横になると、その夜数年ぶりに杏を抱きしめて眠った。

幼い頃から慣れ親しんだ甘い花の様な杏の香りに包まれて眠る心地良さに前夜から殆ど眠っていなかった俺はあっという間に幸せな眠りに引き込まれていった。

ゆっくりと進んでいこうな。

今までの女とは違う。杏は俺がずっと追い求めてきた唯一人の女。

俺にとって唯一無二の存在だから…

眠りに落ちる一瞬前に杏の額にそっと唇を寄せて俺は誓った。



「大切にするよ…杏」




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