【中編】夢幻華
「あんずっ!」


雑踏に負けないように必死に杏の名前を呼ぶ。

杏が俺の声に反応したのか弾かれたように顔をあげ、辺りを見回しているのが目に入る。

杏が俺を探している。その事実だけで心が安堵する自分を感じて驚いてしまう。
でも、それは嫌な感覚ではない。くすぐったいような歯がゆいような不思議な感覚だ。

進行方向を妨げるように進む俺を迷惑そうに見るカップルにぶつかりながらも、杏を見失わないように必死に走る。

あと少し、後5メートル…。


その時



――――ドォン!



最初の花火が上がった。




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