【中編】夢幻華
今日は止めておくって言ったのにここでもう一回挑戦したいって言ったらどんな顔するだろう?

見つめあう俺達の隣りから聞こえる切ない声に何となく気まずい雰囲気が流れる。

俺は杏を抱き寄せて軽くキスをすると頭を胸に引き寄せ耳を押し付けた。
俺の鼓動だけを聞かせる為に反対の耳を塞ぐ。
これで杏にはあの『声』は聞こえないだろう。

問題は俺だよ…

あの声に耐えて何処まで平静を保てるか。

杏に鼓動を聞かせているんだ。
あんまり緊張してバクバク早いのも恥ずかしいし、何とか意識を違う方向へ持っていって気にしないようにしないと。

あ~もう!龍也のやつ!!

これって、もしかしてあいつらが付き合うきっかけになったときに、聖良ちゃんにキスをしようとした事への復讐なんじゃないか?

龍也は根に持つタイプだからなあ…。

未遂だったしあれで二人が付き合うようになったんだから良いと思うんだけど、あいつは未だに気に入らないらしい。

単なるジョークだったんだけどなあ。


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