【中編】夢幻華
「暁の鼓動って気持ちイイ。すごく安心できる。」

溜息をつき懐かしい思い出を振り返ることで何とか暴走を食い止めていた俺を杏が現実に戻してくれた。

「暁は昔からいつもあたしを護ってくれたよね。小さい頃はいじめっ子からも近所の犬からもいつだって護ってくれたし、成長してからは嫌味をいう暁の彼女やファンからも決して危害のないように護ってくれていた。」

「杏の事が誰よりも大事だったからな。傷つける奴は許せなかったんだ。…結局俺が一番傷つけていたんだけど。」

「そんな事ない。あたしはいつだって暁に甘えてばかりで何もしてこなかった。だからこれからはあたしも暁を愛して護っていきたいの。いつまでも子供のままなんて嫌。」

「杏…嬉しいよ。その言葉だけで充分だ。」

「愛してるわ暁。あなたに相応しい女性になるから。きっと誰よりも素敵な女性になるから、待っていて。」

「無理して急がなくても良いよ。杏が杏らしく笑っていてくれたら俺は幸せなんだから。」


杏の一途な想いに胸が熱くなる。

心をこれだけ深く結んでいられるなら充分じゃないか…

そう思ったら自分の中で火の付きかけた感情が静かに収まっていった。


変わりに胸の奥底が満たされるように熱くなってくる。



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