【中編】夢幻華
突然のことに驚き振り返る杏。

弾みでよろけた杏はそのまま俺の腕の中に倒れこんできた。

反射的に抱きとめると

俺の心を和ませる杏独特の花の様な甘やかな香りがふわりと舞う。

大切なものを無くしたかと思ったあの不安が、秋の気配を帯びた晩夏の風に流されるように遠のいていった。


「さとる?どうしたの?」

驚いたように目を見開き俺を見つめる杏。

その瞳には安堵した顔の俺が映っていた。

しっかりと杏を抱きしめ、杏を連れていた男を睨みつける。


「てめえっ!だれだ?何で杏を連れて行った!!」


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