【中編】夢幻華
「……さとる、ごめんね。あんずね、さびしかったの。さとるがこんなに心配するなんて思わなかったから…。」

そこまで言うと俺の腕の中で声をあげて泣き出した。

杏……全部俺が悪いんだよな。お前を一人にしたから。

「ごめんな。杏、さびしかったんだよな。ごめん。」

肩を震わせしゃくりあげる杏をぎゅっと抱きしめて背中をあやすように撫でてやる。

その様子を見ていた晃が先ほどまでのからかう様な口調をガラリと変えて語りだした。

「暁、お前にとって杏がとっても大事だって思い出してくれた?」

晃の言葉にハッと息を飲む。

先ほどから時折感じていた、漠然とした不安、恐怖、焦燥感。

それは全て杏を大切に思うが故の感情だった事を改めて心が納得した瞬間だった。

「お前の年頃は、女の子と遊んだりするのを恥ずかしがる頃だっていうのは分かっているよ。でも、杏はお前にとっても大切な家族だろう?もう少し大事にしてやらないと後で後悔する時が来るぞ。」

晃の言葉に返す言葉も無い。


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