【中編】夢幻華
空には次々と花火が開いては儚く消えていく。

晃はそれを仰ぎ見ながら暁にきれいだろう?と言った。

「茜に、お前のお母さんに初めて逢ったのはこの花火大会だったよ。」

晃は遠い目をして懐かしい思い出を見つめている。暁は杏を抱きしめたまま、晃をじっと見ていた。

「杏のパパ、右京に紹介されたんだよ。僕は茜に一目ぼれしちゃってね…」


ドオーンと大きな音が体を貫くように響いた。


「大切なものは失ってからでは遅いんだよ、暁。一時のプライドで本当に大切なものを見失っちゃだめなんだ。わかるだろう?」

晃の言葉が花火の火の粉のようにチラチラと暁の胸を鈍く焼いた。

「僕は茜と出逢って、お前を授かって幸せだよ。それはどんな理由があれ、大切なものを見失わなかったからだって思っている。暁はどうかな?今日のことで杏を本気で心配して自分に大切なものが見えたんじゃないか?」

暁は何も言えなかった。

晃が取った今日の行動の意味が全て自分の為だったのだから。

ただ、晃の瞳を見つめて黙って頷く。

それだけで晃は分かったようだった。


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