【中編】夢幻華
杏の涙もいつの間にか止まり、俺と同じように父さんを見つめていた。

近くで俺を心配してみていたクラスメイトたちが駆け寄ってくる。

ああ、そういえばこいつら待機していたんだっけ。

ぼんやりと考えて、ハタと気づいた今の自分の状況

杏と抱き合うような形でいる自分の姿。こいつらはずっと見ていたんだ。

一気に顔が赤くなる。その様子を見ていた杏が俺の腕から離れようと身を捩り始めた。

俺を気遣って…?

杏が腕の中で動くたび、花の様な杏の香りが立ち上り安堵感が胸に広がる。

ばかだな、俺。

「いいんだよ、杏。俺の傍から離れるなよ。ずっと傍にいるんだぞ。」

俺は左手でぎゅっと杏の肩を抱き、引き寄せると、右手で響たちに手を振った。

響や龍也に驚いたように目を見開かれたけれど、誰もからかったり、冷やかしたりする奴はいなかった。



< 22 / 138 >

この作品をシェア

pagetop