【中編】夢幻華
ごめん、杏。寂しかったんだよな?

俺、ずっと最近かまってやってなかったから・・・。

杏が今日俺と出かけるのを凄く楽しみにしていたって言うのも、蒼(あおい)かあさんから聞いていたのに・・・。


りんご飴の屋台を中心に闇雲に杏の名を呼び名から走る。

辺りは先ほどより夕暮れの気配が濃くなって時間が無いことを告げはじめていた。

暗くなる前に見つけないと、もっと探しにくくなる・・・。焦る気持ちとは裏腹に時間は無常にも過ぎていく。

似たような背格好の少女を見つけては近寄っていくが、目立つ大きなリボンの杏はどこにも見つからない。

どの位走り回っているんだろう。暁の不安は次第に確信に変わっていった。

やっぱり誰かに連れて行かれたんだろうか?

神社の境内まで来たころには、夕陽は姿を消し、空の色は赤紫から徐々に夜の闇に変わろうとしていた。

今日に限っては空に瞬く星も美しいと感じる余裕は無い。

むしろ、こんなにも早く姿を現したことを恨めしくさえ感じ、ヘナヘナとその場に力なくへたり込み頭を抱えた。

どうしよう、本当に杏が誰かに連れて行かれたのだったら・・・。


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