【中編】夢幻華
……こんな所でへこんでいる場合じゃない。杏を探さないと…。

暁は再び顔を上げ走り出そうとした。

そのとき、ふと自分を呼ばれたような気がして振り返ると、雑踏の向こうから見知った顔が走ってくるのがわかった。

「響?どうした血相を変えて。」

先ほど別れた響が慌てた様子で暁の元へと走ってくる。

「どうしたって…あの娘いたのか?」

ハアハアと息を切らしている様子からかなり急いで走って来たらしい。

「もしかして…杏を探してくれていたのか?」

「ああ、まあな。携帯に電話したのにおまえ出ないから、探し回るしかないだろう?」

「あ?携帯って、そういえばマナーモードになったままだったかも。」

「のんきなやつだな。緊急の連絡だってのに。」

「緊急のって…まさか杏が見つかったのか?」

勢いよく響に掴みかかった俺の表情が怖かったのか響が一瞬引きつったように笑った。

「暁、落ち着けよ。まあ、見つかったことは見つかったんだが…一人じゃなかったんだよ。」

「…え?」



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