【中編】夢幻華
杏をここまで追い詰めたのは俺だ。

おまえはどの位、その想いを胸に秘めてきたんだろう。

俺がおまえを忘れたくて荒れている間もおまえはずっと一人で堪えて、俺を見つめ続けてきたんだな。

杏のほうが俺よりずっと大人じゃないか。

どうして杏を子どもだと思い続けていたんだろう。

指を唇からずらし瞳に溜まった今にも零れ落ちそうなガラス玉に触れると、それは弾けて頬を伝い俺の指を濡らした。

唇を寄せ涙を拭い取っていくと杏の体は細かく震えていた。

そのまま腕の中にすっぽりと包み込むように抱きしめると、細い指が俺の胸の辺りで何かに耐えるようにギュッと握られた。

溢れ出しそうな杏の想いが、その握り締めた震える拳から痛いほどに伝わってきた。


泣かせてばかりでゴメン…杏


愛してるよ


俺の想いは……


声になっていただろうか?


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