【中編】夢幻華
先ほどまで胸を覆っていたどす黒い不安が再び騒ぎ出す。

「20代後半くらいの男に抱っこされていたんだよ。まさかと思ったけどさ、見ようによっちゃ親子にも見えたし、確信が無かったからお前を探していたんだ。」

「そっ、それで?そいつはどこにいるんだ。」

「さっき一緒にいたクラスのやつらが手分けして尾行してくれているよ。メール入ってないか?」

「メール?」あわてて確認すると数人のクラスメイトから分刻みで報告が入っているのがわかった。

友人の心遣いに胸が熱くなる。

「もたもたすんなよ暁、行くぞ。」

響が俺の背中をバンと叩くと先に早足で歩き出した。

いってぇ・・・本気で叩きやがったな?痛みが理性を引き戻してくれた。

そうだ、ぼんやりしている場合じゃない。その男といるのが本当に杏なのか確かめないと。

「ああ、急ぐぞ。」

言うや否や俺は迷いと不安を振り切り、提灯に照らされた雑踏の中へと飛びこんでいた。



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