【中編】夢幻華
今更ながら、現実であると確かめたくて自分をつねってみようかと馬鹿な事を一瞬考えたが、周囲の視線に気付いて思いとどまった。

ここに響か龍也がいたら絶対に代わりにつねって確かめていただろうけど、こんな時に限ってあいつらはいない。

高級ブランド店の前でにやける男って下心見え見えって感じでやばいよな。
と、ショウウィンドゥのに映る自分のニヤケ顔を見てそんな事を考えつつ杏の肩を抱くと、店内へ入ろうとした。

「ねぇ?暁…。」

呼び止める杏の声に振り返った俺の頬に伸びた杏の細い指。

ヒヤリと秋の風に冷えた指先の触れる感触にドキンと胸が高鳴る。

…次の瞬間、ピリッと左の頬に痛みが走った。


あぁ…イタイって事はこれは夢じゃないのか?……じゃなくって。


………なんで杏が俺をつねっているんだ?


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