【中編】夢幻華
『暁さんの従妹だって聞いてたけど』と聞かれたときはズキンと胸が痛んだけれど、暁が横から割って入って『従妹だけど婚約者だ。』とはっきり言った時には驚きと嬉しさで声もでなかった。

瞳を大きく見開いて驚く彼女の前で、暁は堂々とキスをして、真っ赤になっているあたしを余所に『そう言う事だから。』とサラリと言うと鮮やかにウィンクを決めてあたしの肩を抱いて店を出た。

車に乗り込むと助手席に視線を移した暁は少し照れながら小さな声で呟いた。

「婚約宣言しちまった。絶対に後輩に何か聞かれるだろうなあ。あー!杏の事根掘り葉掘り聞いてくるんだろうなー。」

「アレは冗談だって言えば?ただの従妹だって…。」

胸が痛んだけれど、暁を困らせてしまったと思って、精一杯の笑顔を作ってそう言って見せた。

「バカ!勘違いすんなよ?杏が婚約者だって堂々と言えるなんて俺にしちゃすげぇ幸せなんだ。
俺が言いたいのは杏の事を後輩やサークルの奴らに色々探られて、そのうち絶対に紹介しろだの連れて来いだのって言われるのが分かるから早まったと思っただけだ」

「…紹介?なんで?」

「みんな知っているからな。俺が本気で惚れてて手を出せない女がいるって事」

「え?」

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