【中編】夢幻華
「…汚いと思うか?酷いやつだと思うだろう?
杏が一人で何年も苦しんでいた間に俺は馬鹿な事をして自分の気持ちから逃げ回って…お前を傷つけてばかりだった。ごめんな。」

暁があたしを覗き込んで頬に手を添え親指で顔の輪郭をなぞり始めた。
大切なものに触れるように、そっと愛情を込めて滑る指先はあたしの不安を宥めるように優しかった。

「杏がこんな俺を受け入れられないなら…俺は諦めるしかないんだ。
でも俺は本気だから。杏が後になって真実を知って傷ついたり嫌な思いをするのは嫌だから
…今ちゃんと話しておきたかったんだ。杏の全てを俺のものにする前に。」

「あたしの全て?あたしは生まれたときから暁のものだよ。暁しか見てこなかった。暁だけが好きだったの。暁しか愛せない。暁でなくちゃダメなの。」

「杏…本当に?こんな俺を受け入れてくれる?」

「うん、もちろんよ。暁でないとダメなんだもん。あたしが(。。。。) ね。」


あたしの言葉を受けて、はあぁぁぁぁ~~~っ!と盛大な溜息をつく暁にちょっと驚いた。

「よかった…。杏がもう俺を嫌いって言ったらどうしようと思っていたんだ。マジですげぇビビって告白したんだぜ?」

「そりゃ、他の女の人とそう言う関係だったって聞くのはいい気分じゃないけれど、でも、暁がずっと心の奥ではあたしを愛してくれていたのならかまわ…。」

『かまわないわ』と言葉を言い切る前に暁の優しい唇があたしの唇を塞いだ。

「もう我慢できねぇし。今度こそ本物の杏を俺のものにしたい。約束しろよ?絶対に俺の傍を離れるな?ずっと傍にいるんだ。…一生だ。いいな?」


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