【中編】夢幻華
「いーや。むしろ母さんは喜んでいたけどな。」

そう言いながら更にもう一つキスを落す。

「そっ…そうなの?あっあのっ…暁ってそんなにキス魔だった?」

……そう言えば、杏と想いが通じてから数時間。俺、10分と空けずにキスをしている気がする。

信号待ちでキス。

話の合間にキス。

高速で運転中は流石に無理だったが、休憩するたびに必ず充電するように長めのキスを奪った。

もちろん、運転中は前を見ていたが、充電切れが近付くと繋いだ手を引き寄せて指先や手の平、手の甲と思いつく限りの場所にキスをした。

……キス魔って言われてもしょうがないかな?

「杏は嫌か?俺はやっと杏と気持ちが通じて片時も離したくない。出来ればずっとこうして抱きしめて離さずに一日中でもキスしていたい。…杏はそんな気持ちにならない?」

「…っ!ぇ…っと…その…あたし…あの、だってキスって今までに挨拶みたいにチュッてするのをパパや晃君や暁としていたくらいで…その、あんなクラクラするようなのは知らなかったし、どうしていいかわかんなくて。」

「あー、もう絶対に父さんにはキスするなよ?メチャクチャ腹が立つ。」

「晃君なのに?今までずーっとキスしてきたじゃない。いまさら…」

「イ・ヤ・ダ!絶対にダメだ。あのクソ親父に杏の唇が触れるなんて許せねーもん。」

「暁…駄々っ子みたいよ?」

「…あいつ俺をからかうしムカツクんだよ。」

「クス…暁ったら…。」

杏がパアッと輝くような笑顔を見せたとき、部屋のドアがノックされた。


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