The ring is a cupid
だけど、何だか指輪から目をそらせなかった。

引きこまれるような、そんな感覚を感じた後に、私はその指輪がぶら下がっているひもを掴んだ。


「これ下さい」

買わなきゃいけない気がした。

このままお店を出たら後悔する気がした。


「分かりました。2500円になります」

さらにもう一つ袋を用意して、指輪を入れてくれたお姉さんに小さく有難うございます、と言う。


「届くと良いわね、貴女の想い」


何で分かったんだろうと驚くと同時に、顔が熱くなった。


「は…はいっ!!」

逃げるようにお店を出ると、外は大分暗くなっていた。





その朝、事件は起きたのだ。

指輪のネックレスを首にかけて数日。


斉藤くんは何故だか困った顔をしていた。

友達が声をかける。


「弘希、どした?」


「んー?今日さ、読む本無いんだよね…」


ああ、朝読書の本が無いんだ。

うちの学校では、朝の30分読書の時間がある。

本が無いと、見回りの先生に怒られるのだ。

それがかなり面倒だ。


斉藤くん、どうするんだろう。


その姿を目で追っていると、こちらに近づいてきた。

最初は、気にせず見つめていたけれど、段々と緊張してきた。


もう今は、真ん前まで来ている。


「どれか貸して下さい!」

そう言われてハッとした。

今日は、たまたま本を3冊持っていたのだ。

そしてその3冊は机の上に並べられていた。


「あ…うん。どれが良いかな?」

「じゃあー…これっ。ありがとね」

ドキンッと心臓が跳ねた。


無論、朝読書の時間集中出来ずだったけれど。

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