The ring is a cupid
朝読書が終わると、大切そうに両手に持った本を、
「ありがと」

と返してくれた。


そっと指輪に触れる。


結構効果あるな…なんて思ったり。



にまにましていると、授業開始のチャイムが鳴った。


案の定。

「何ニヤついてんの?きもいぞ」

野山にバカにされたんだけど。


「失礼なっ!…まー、今日は許す」

機嫌が良いから、そう言ったのに、野山は更に顔を歪ませて私を見た。


「おい、何かおかしくないか?心広すぎっていうか…

良いことあったの?」


それって、いつもは心狭いって言ってるのと同じだよね。

一瞬小突いてやろうと思ったけれど、“良いこと”というワードに、すぐに顔がにやけた。


「まあね。野山には教えてやらないけど」


「なんだよ~!つまんないの」

やわらかそうな頬が、ぷくっと膨れる。


童顔の野山は、まるで幼稚園児のような表情だ。

黙っていれば可愛いのに。

何とも残念な気持ちで私は野山を見つめた。






「詩音はさ、告白とか考えてないの?」

飲んでいた紅茶を吹き出しそうになって、慌てて飲みこんだら咳き込んでしまった。


「ごほっ…な、何急に?」


購買部で買ってきた、サンドイッチと紅茶を食べていた時、朋ちゃんが急に私に問いかけた。


「考えてないっていうか、する気ないっていうか」


深くを望んでいるわけではない。

両想いになりたくないわけじゃない。

手を繋いで歩いたり、知らない面も知れたり。

彼女になれたなら、どれだけ幸せだろうとも思う。

けれど、勇気も自信もない私に告白なんて出来るわけがない。

本心は、傷つきたくないだけなんだろう。


「それで良いのかなー、って思っただけ」

ごちそうさまでした、そう言って朋ちゃんは席をたった。

このままで良いのか…分からない、ダメなのかもしれない。


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