JUNKETU ~首筋にkissの花~


膝裏に腕を差し込んで抱え込むとジュンは薄く目を開けた。



「…ト…さん…」



嬉しそうに優しい笑顔を溢したジュンは俺の首に腕を回してギュッと胸に顔を埋める。



「ぉ…帰りなさ…ぃ」



完全にオヤジと間違えているらしく、今までに俺には見せた事ない甘えた仕種を見せる。


それはまるで猫の様だ。


育ちの良い家猫はきちんと躾られているらしく、スリスリとご主人様(だと思い込んでいる)に甘えながら同じ言葉を何度も繰り返す。


「お帰りなさい」と…



ズキリと胸が痛む。

鋭利な刃物ではなく、寧ろ切れない刃物で何度も何度も傷を抉られるような痛みだ。



グッと奥歯を噛みしめてジュンを寝室へ運ぶ。


ジュンのベッドに転がる羽猫のぬいぐるみを足先で蹴りあげ、ジュンをそっとベッドに下ろす。


ジュンから身体を離そうとするとクンッと引っ張られる感覚がして、その力点を目で追えばジュンは俺のパジャマの裾を掴んでいた。



「ジュ…」


「行かないで…。ト…さん」



ズキンッ―


また胸が痛んだ。




オヤジはこんなにも愛されていて、なのにまだお袋を愛している。

ジュンはソレを知りながらオヤジと一緒にいる事を願っている。



そんなにオヤジが恋しいのか?

そんなに寂しいのか?


こんなに近くに俺が、家族がいるのに…

自分は一人ぼっちだと思っているのか…



頬にかかる黒髪を鋤くってやると、ツーと涙が伝った。

ソレも指先で拭ってやると少し笑った気がした。



「と…さん………ぁさん」



小さく呟いたジュンはそのまま脱力して深く眠り出した。



すっかり眠りに落ちたジュンにちゃんと布団を掛けてやってから、



「おやすみ」



返ってこない挨拶をして寝室から出た。
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