JUNKETU ~首筋にkissの花~


瞼に焼き付いた光景は昨日の事の様に鮮明だ。



色素の薄いお袋の肌が黒い何かに染められて、そして床に沈んでいく。



俺が見たのはアレが最初で最後だった。


度々吐血したみたいだけど、俺はオヤジから聴かされるまでは知らなかった。
知らされなかった。



真っ黒な血溜まり。
薄い茶髪に張り付く闇の色。

割れた皿の白がやけにまぶしい――――





「―ルくん?ハル君」


「え?」


「大、丈夫?」



冷たい指先に目尻を撫でられて初めて自分が泣いている事に気付かされた。


「ぁ、悪い。へーき」



やっぱりまだ受け入れきれてなかったのかもしれない。


指先を掴んでやると、また困った顔の笑顔が目の前にあった。



「やっぱりあたし…帰」


「へーきだから続けて。ってか、話してよ。俺の知らない事もあるみたいだし」




グイッと乱暴に目を擦ると涙の跡は跡形も無くなった。

そんな俺を見て小さく溜め息を吐いてから彼女はまた話しを続けた。



「孤児院ってね、教会の中にあるの。だからあたしも洗礼を受けているのだけど、トウマさんはソレが薬なんだって言ってた。…コレ見て?」



シュルッと衣擦れの音がして晒された胸元に



「コレ、十字架?」

「うん。トウマさんがナイフで刻んだの」



薄くはなっているもののまだ赤く跡になった二本の刃物傷。

恐らくお袋に飲ませる血を絞り出したモノだろう。


「痛かったろ?」

「……ちょっとだけ、でもそれ以上にトウマさんが痛そうだった」



指先でその跡に触れると



「ッ!」



電気が走った様な感覚と火傷したみたいな鈍痛が俺を襲った。



その痛みが俺を覚醒させる。

今迄
見えなかったナニか。
見ようとしなかったナニか。


少しずつ形が固まっていく。



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