ゴスロリ彼女のキスの味


 おれが乗っている車の窓が下がり、その男がしゃがんで話しかけてきた。


「今日のことは忘れろ。おまえがゼロ様を刺していないことはわかっている」

 低い声には威圧感があって、“ありがとよ”の嫌味の一言も出なかった。


「ケガしてるようだな。病院を手配してやる。不良に絡まれてケガさせられたということ以外は喋るな」


 おれは頷いた。


 車の窓が上がるとき、ハッと気づいて「ゼロは無事なのか?」と尋ねたが、男は答えてはくれなかった。


 男は“ゼロ様”と言った。


 わざとゼロの関係者だということを教えたのだ。

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