LOVE&MASK
「どうぞ。」
不意に横から声をかけられたかと思えば、目の前に差し出された紺色の折り畳み傘。
「はい…?」
なんていいながら、首を声のするほうに傾けてみればそこには見慣れない男。
誰?
「俺、家近いし。…だから使って。」
「へ?…や、でも。」
「いいから。」
それだけ言うとどしゃぶりの中、走り出したその人。
「ちょっと!!」
え?
何…?
嵐のように去って行った男の背中を見つめながら、ただ呆然とするしかできないあたし。
「……は?」
手元の折りたたみ傘には、律儀に名前なんて書いているわけでもなく、さっきの人が誰なのかあたしにわかるわけがない。
それでもせっかく貸してくれたんだから…
使わないほうが失礼かな?